赤手空拳 (せきしゅ くうけん) 1
『手に何の武器も持たず まったくの丸腰でいること。
赤手は 手に何もないこと。空拳も同意で意味を強調。』
三蔵は 1人 森の中を歩いている。
どうして こんな所にいるのか、何故 己1人なのか、何もわからないままに
彷徨うように ただ歩いている。
暑くもなく 寒くもない 心地よいほどの感覚なのに なぜか気味が悪い。
妖怪の気配や殺気は 感じられないが、誰かに見られているような気がする事に、
懐に手を伸ばすと 愛銃に手を掛けた。
気が付いたら この状態なのだ。
下僕の3人のことも気になるが、は 何故自分の側にいないのか。
三蔵が 自分から と離れるような事はしない。
しかも 自分が歩いているこの森は 何の音もしない。
虫の鳴き声も 鳥の羽ばたきも 風に揺れる木の枝の音も
聞こえてこない静寂の世界なのだ。
三蔵は 大きく息を吐くと 近くの木の幹に寄りかかった。
懐に入れた手を 銃から離すと 煙草へと伸ばし、
それを取り出すと 銜えて火をつけた。
***
朝 目覚めた は 三蔵の腕の中からするりと抜けると、
着替えをし 洗面をし いつものように 三蔵を起こそうと声を掛けた。
「三蔵 朝です。起きてください。」
常なら 眠そうながらも の声を聞いて 瞼を上げてくれる三蔵が、
何にも反応してこない。
今朝は 良く眠っていること そう思いながら は、三蔵の肩に手を掛けて
軽く揺すって もう一度 「三蔵 起きてください。」と 呼んでみた。
笑みがのぼっていたの顔が 不意に険しいものに変わり 三蔵に置いた手に
力を込めて もう一度 今度は強く 揺すってみる。
しかし 三蔵に 反応は無かった。
は急いで 手を首に動かし 三蔵の脈を取る。
脈は正確に 力強く の手に伝わってきた。
次いで 手の平を 口と鼻の上にかざすと 三蔵の息も感じられる。
は その2点を確かめると 隣室の八戒たちの所へと向かった。
ノックをすると 中から「どうぞ 。」という 八戒の声が聞こえた。
ドアを開けて中に入ると、八戒1人が 部屋の真ん中に立っている。
「八戒、三蔵の様子が変なの。
ちょっと 来てくれる。・・・・・・・待って 起きているのは 八戒だけ?
悟空と悟浄は どうしたの?」
の問いかけに 八戒は 珍しく渋い表情で 口を開いた。
「どうやら 三蔵も同じ状態のようですね。
悟空と悟浄も 眠りから起きてきません。普通どおりに眠りから覚めたのは、
僕との2人だけのようです。」
その発言に はベッドで寝ている 悟空と悟浄を見た。
「どうしたのかしら? 八戒には 何か心当たりがある?」
「それがないんですよ。僕に尋ねるくらいですから、にもないんですね。」
「ええ 残念ながら ないわ。
八戒 私たち2人で 3人を 守るのなら、三蔵をこっちの部屋に移しましょうか。
長期戦に備えておきましょう。」
「そうですね。」
と八戒の2人は 三蔵を悟空の隣のベッドに寝かせると、今後について相談した。
「 昨日一日を 振り返ってみましょう。
何か 三蔵たちと僕たちを分ける出来事が あったはずです。」
「そうね 昨日私と八戒が 2人だけになったのは、川で洗濯したときだけでしょ?
それ以外は 私たちを2人と3人に分けた出来事はないと思う。
あの時に 3人だけに何かがあったのだと思うわ。
ジープに聞いてみたらどうかしら? 私たちは見なかった何かを 見てないかしら?」
「あぁ そうですね。
ジープ、昨日僕たちが 洗濯でいなかったとき 三蔵たちに何かありませんでしたか?」
八戒は 悟空の枕許で うずくまるジープに 話しかけた。
「キュ、キュウ〜 キキッ キュウ〜。」
可愛い白い竜は 主の八戒に 何かを語っていた。
「 僕たちがいない間には これといって 不審な事は無かったようですよ。
僕が思うのに ジープが不審に思わないような 日常的なことだと思うんです。
眠っている間に 何かが起こったのなら 僕もも巻き込まれていたはずですよね。
でも そうではない。僕たちは 何とも無いのですから・・・・・。
それも 何か口にしたものが原因ではないかと思います。」
八戒の話を聞きながら は 三蔵と悟浄・悟空だけが 口にしたような物を考えた。
「それだと お昼に食べたりんごじゃないかしら。
私と八戒は お茶が渋くなるからって 食べなかったけれど、
珍しく 三蔵が手を出していたから 覚えているの。」
「あぁ そういえば そうでしたね。
がそう言うのなら たぶん それが原因でしょう。
でも どうしましょうか。」
八戒が 困惑するのも頷ける。
「苦しんでいない所を見ると 毒関係ではなさそうね。
たぶん 睡眠薬系の何かだと思う。しかも 夢の中で 幻術か何かに掛かっていると
見たほうがいいでしょう。これだけ起きないのだから・・・・。
もし それが 妖怪の仕業なら 夢の中で相手を倒さない限り 目が覚めないと思うわ。」
は 冷静な判断を下した。
「では この3人は 夢の中で同じフィールドにいるのでしょうか?」
「ん〜そこまでは 分からない。
私 目覚めさせたりは出来ないけれど、話は出来ると思うの。
悟空と悟浄が相手では ちょっと無理かもしれないけれど、
三蔵なら 何とか話せるかもしれない。
やってみようか?」
「そうですね おねがいします、。
でも 三蔵となら話せるって事は やはり2人の愛の力というものでしょうか?」
「違います!! 八戒ったら そんなこと言わないでよ。
三蔵なら 出来るかもしれないというのは 私と三蔵の間柄の問題ではなくて、
三蔵の持つ 『三蔵法師』という神に近い者の力に頼ろうということです。」
「そうなんですか。(笑
そんなに 思いっきり否定しなくてもいいですよ。
三蔵法師の力だろうと への愛の力だろうと、今は必要なことですから・・・。
お願いします。」
「ん やってみるね。
八戒 私が 三蔵と話す間は その事に集中してしまうから、
無防備になってしまうと思うの。
安全確保を お願いね。」
は 手を合わせて 印のようなものを結び 口内で呪文を唱えているようだったが、
突然に 三蔵の眠るベッドの端に 倒れこんだ。
「 本当に お願いしますね。」
八戒は の倒れこんだ顔を 見ながら つぶやいた。
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